配偶者の扶養に入りながらひとり法人は作れる?社会保険の被扶養者と役員報酬

会社員や公務員の配偶者の社会保険の扶養に入っている人が、自分でひとり法人を設立すると、その扶養から外れるのかという相談がある。結論を一言でいえば、会社を作ったことそのものでは外れず、外れるかどうかは「自分が社会保険の被保険者になるか」と「収入が認定の基準を超えるか」で決まる。この記事では、扶養の中身、外れる条件、役員報酬との関係、個人事業主との違いを日本年金機構の基準にそって整理する。
会社員の配偶者の「扶養」には2種類ある
会社員・公務員(厚生年金に加入している国民年金の第2号被保険者)に扶養されている配偶者は、ふつう2つの扶養を同時に受けている。ひとつは健康保険の被扶養者で、自分で保険料を払わずに配偶者の健康保険から医療の給付を受けられる。もうひとつは国民年金の第3号被保険者で、自分で保険料を納めなくても国民年金の加入期間として扱われる。
日本年金機構は第3号被保険者を「厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満であり、かつ配偶者の年収の2分の1未満の方)」と説明している。つまりこの扶養は、配偶者が会社員などであることが前提になる。配偶者自身が個人事業主(第1号被保険者)の場合は、この第3号の扱いはなく、健康保険も世帯で加入する国民健康保険になるため、以下は配偶者が会社員・公務員であるケースを前提に読んでほしい。
法人を作っただけでは外れない。外れる入り口は2つ
ひとり法人を設立し、自分が代表(役員)になること自体は、扶養を外す事由ではない。扶養から外れるのは、次のどちらかにあたったときである。
ひとつは、自分がその法人で健康保険・厚生年金の被保険者になったとき。被保険者になると自分が加入者の立場になるため、配偶者の被扶養者や第3号被保険者ではいられなくなる。もうひとつは、被扶養者・第3号の収入要件を満たさなくなったとき。どちらか一方にあたれば外れる。
見落としやすいのは、収入が基準より低くても外れる場合があることだ。日本年金機構は、年収が130万円未満であっても厚生年金の加入要件に当てはまる人は被保険者になるため第3号被保険者には該当しない、としている。役員として社会保険に入る扱いになれば、収入の多い少ないにかかわらず扶養からは外れる。
役員が社会保険に入るかは、報酬の有無と労務の実態で決まる
では、ひとり法人の役員は必ず社会保険に入るのか。ここは金額だけで一律に決まるわけではなく、報酬を受けて経常的に法人の仕事をしているかという実態で判断される。報酬を受け取っていれば、原則として健康保険・厚生年金の被保険者になり、その時点で配偶者の扶養からは外れる。
一方、役員報酬を受け取らない、または報酬から保険料を控除できないほど著しく低い場合は、被保険者にならない扱いになる余地がある。ただしこれは金額の低さだけで決まるものではなく、最終的には管轄の年金事務所が実態を見て判断する。役員報酬を0円や低額にしたときに社会保険の扱いがどうなり、代わりに何の負担が生じるかは役員報酬を0円にすると、代わりに何がいくら来るかで詳しく扱っている。
収入の基準には、役員報酬も「収入」として入る
被扶養者・第3号の収入要件は、日本年金機構によると年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)で、かつ同居なら被保険者(配偶者)の収入の半分未満、別居なら配偶者からの仕送り額より少ないこととされている。ここでいう年間収入は、過去の実績ではなく、これから見込まれる収入で判断される。
法人から自分に支払う役員報酬も、この収入に含まれる。役員報酬を年130万円以上の見込みで設定すれば、社会保険の加入判断を待つまでもなく、収入要件の側で扶養から外れることになる。扶養の範囲内にとどめたいのか、報酬を取って自分で社会保険に入るのかは、法人をどう使うかの設計そのものなので、ひとり法人の社会保険料の額とあわせて考えたい。
個人事業主の扶養との違い
法人の役員と違い、個人事業主は事業主本人が健康保険・厚生年金の被保険者になることがない。そのため、事業の収入が被扶養者の収入要件の範囲に収まっていれば、配偶者の扶養にとどまれる場合がある。「法人を作ると扶養を外れやすく、個人事業のままなら残りやすい」という差は、ここから生まれる。
ただし、個人事業の場合に収入をどう見るか(売上から必要経費をどこまで差し引いて判定するか)は、配偶者が加入する健康保険が協会けんぽか健康保険組合かによって扱いが分かれ、健康保険組合は独自の基準を設けていることがある。法人化するか個人事業のまま続けるかは、扶養だけでなく税や社会保険の負担全体で見た方がよく、個人事業主とひとり法人の損益分岐や個人事業主が法人化するタイミングが判断材料になる。扶養の範囲を保ちつつ社会保険の負担を抑える目的で法人を使う考え方はマイクロ法人とはでも触れている。
| 項目 | ひとり法人の役員 | 個人事業主 |
|---|---|---|
| 本人が社会保険の被保険者になるか | 報酬を受け実態があれば原則なる | 事業主本人はならない |
| 被保険者になると扶養は | 外れる(収入の多少によらない) | 被保険者にならないため収入要件次第 |
| 収入要件(日本年金機構) | 年間収入130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満)かつ同居は配偶者の収入の半分未満 | |
扶養を外れたら、自分で社会保険に入る
扶養から外れると、自分で公的医療保険と年金に入ることになる。法人で健康保険・厚生年金の被保険者になる場合はその保険料が法人と本人の負担として生じ、被保険者にならない場合は国民健康保険と国民年金(第1号被保険者)の保険料を自分で納めることになる。いずれにしても、扶養のときには発生していなかった負担が新たに増える。
この新たな負担がいくらになるか、役員報酬の取り方で何が変わるかはひとり法人の社会保険料、報酬を0円にしたときに代わりに来るものは役員報酬を0円にすると、代わりに何がいくら来るかで金額まで確認できる。法人を維持するとこうした固定の負担が増える点は、会社設立(法人化)のデメリットのひとつでもある。
最終判断は配偶者の健康保険と年金事務所
扶養から外れるかどうかの最終的な判断は、自分ではなく、被扶養者の認定をする配偶者の勤務先の健康保険(協会けんぽまたは健康保険組合)と、社会保険の加入を判断する管轄の年金事務所が行う。健康保険組合は収入の見方などに独自の基準を持つことがあるため、法人を作る前に、配偶者の勤務先を通じて認定の基準を確認しておくと、設立後に扱いが想定と違って慌てずにすむ。
なお、法人を設立するには登記する本店の住所が必要で、自宅を出したくない場合はバーチャルオフィスの住所を使う選択肢がある。住所の条件や料金はバーチャルオフィス比較で確認できる。
よくある質問
ひとり法人を作ると必ず配偶者の扶養から外れますか。
必ず外れるわけではない。外れるのは、自分が法人で健康保険・厚生年金の被保険者になった場合か、被扶養者・第3号の収入要件を満たさなくなった場合である。役員報酬を受けて社会保険に入る扱いになると外れる。
役員報酬を0円にすれば扶養に残れますか。
報酬を受け取らない場合は社会保険の被保険者にならない扱いになる余地があり、収入要件を満たす限り扶養に残れる可能性がある。ただし加入するかどうかは金額の低さだけで決まるものではなく、管轄の年金事務所が実態を見て判断する。
扶養に残れる収入の基準はいくらですか。
日本年金機構によると、年間収入130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)で、かつ同居なら配偶者の収入の半分未満とされている。役員報酬もこの収入に含まれ、過去の実績ではなく見込みの収入で判断される。
個人事業主なら扶養から外れませんか。
個人事業主は事業主本人が社会保険の被保険者にならないため、事業の収入が収入要件の範囲に収まっていれば扶養に残れる場合がある。ただし収入をどう見るかは配偶者が加入する健康保険の基準によって分かれるため、事前に確認する。
扶養から外れるかは誰が決めますか。
被扶養者の認定は配偶者の勤務先の健康保険(協会けんぽまたは健康保険組合)が、社会保険の加入は管轄の年金事務所が判断する。健康保険組合は独自の基準を持つことがあるため、法人を作る前に配偶者の勤務先を通じて確認しておくとよい。
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