最終更新 2026/09/22 掲載サービス 13(バーチャルオフィス8件(比較7社+京都の0円1件)・会計ソフト3件・銀行2件) 料金確認日 09/21〜09/22 更新履歴

役員報酬を0円にすると、代わりに何がいくら来るか【2026年9月】

ひとり法人の記事で「役員報酬を0円にすれば社会保険料がかからない」と書かれているのをよく見ます。これは正しいのですが、代わりに来る請求の金額が書かれていないことがほとんどです。国民健康保険料は前年の所得で決まるので、法人成りした年は1円も下がりません。さらに、0円にすることで使えなくなる控除枠が3つあります。金額を全部出します。

先に結論
  1. 法人成り1年目の国民健康保険料は下がらない。前年の事業所得が800万円なら東京23区で年867,979円(40歳未満)、300万円でも年338,979円。役員報酬を0円にしても、この請求は前年の所得で確定済み。
  2. 均等割の軽減(7割・5割・2割)も前年所得で判定する。単身世帯の7割判定は430,000円、2割判定でも1,000,000円。個人事業のときに所得があれば1年目は当たらない。
  3. 生活費を会社から借りると認定利息がかかる。令和8年中の貸付けは年1.3%。残高500万円で年65,000円が給与として課税される。しかもこれは定期同額給与に当たる(法人税基本通達9-2-11(2))。
  4. 役員報酬0円だと、損金・控除の枠が年150万円ぶん死ぬ。企業型確定拠出年金は厚生年金の被保険者であることが要件(年660,000円)、小規模企業共済は所得控除なので当てる所得が要る(年840,000円)。

前年所得別の国民健康保険料

東京23区のうち21区が同じ料率です(中野区・江戸川区は独自、目黒区は介護分の所得割だけ異なります)。令和8年度の料率で、単身世帯の年額を計算します。

令和8年度・東京23区(21区共通)・単身世帯の国民健康保険料(当サイトが公式料率から計算)
前年の事業所得医療分支援金分子ども子育て分40歳未満 計介護分40〜64歳 計
300万円 240,607円 89,560円 8,812円 338,979円月28,248円 80,251円 419,230円月34,936円
500万円 390,807円 145,560円 14,212円 550,579円月45,882円 128,851円 679,430円月56,619円
800万円 616,107円 229,560円 22,312円 867,979円月72,332円 170,000円限度額 1,037,979円月86,498円

計算式は次のとおりです。算定基礎額=前年の総所得金額等 − 基礎控除430,000円。そこに区分ごとの所得割率を掛け、均等割を足します。

令和8年度・東京23区(21区共通)の料率
区分所得割率均等割(1人あたり)賦課限度額
医療分7.51%47,600円670,000円
後期高齢者支援金等分2.8%17,600円260,000円
介護納付金分(40〜64歳)2.43%17,800円170,000円
子ども・子育て支援納付金分0.27%1,873円30,000円
令和8年度から区分がひとつ増えている

子ども・子育て支援納付金賦課分は令和8年度に新設された区分です。均等割1,873円+所得割0.27%、限度額30,000円。前年の事業所得が800万円なら年22,312円の増加です。令和7年度以前に書かれた試算は、このぶんだけ少なく出ています。18歳未満は均等割が全額軽減されます。

中野区・江戸川区は独自の料率、目黒区は介護分の所得割だけ異なる。端数処理は各区の公式ページに記載がない。上の金額は端数処理をしていません。区が100円未満を切り捨てる場合、区分ごとに最大99円ずつ下がります。

軽減が1年目に当たらない理由

国民健康保険料の均等割には7割・5割・2割の軽減があります。判定に使うのは前年(法人成りの前年)の総所得金額等です。単身世帯の場合、判定の基準額はこうなります。

均等割の軽減判定(単身世帯・令和8年度)
軽減単身世帯の判定基準上の表の3例は当たるか
7割430,000円以下3例とも当たらない
5割740,000円以下3例とも当たらない
2割1,000,000円以下3例とも当たらない

個人事業の所得が300万円あれば、2割軽減の1,000,000円も超えます。軽減が当たるのは法人成りの2年目以降で、1年目には当たりません。

会社を辞めて法人を作った場合に使える「非自発的失業者の軽減」(給与所得を100分の30とみなす)もありますが、対象は雇用保険の受給資格者証にある離職理由コードが該当する人で、減らす対象も給与所得です。個人事業からの法人成りが対象になるかどうかは、どの区の公式ページにも書かれていません。該当しそうな場合は区の国保の窓口に確認してください。

国民年金は定額で年215,040円

役員報酬が0円なら厚生年金の被保険者でなくなり、国民年金の第1号被保険者になります。保険料は所得に関係なく定額です。

月額(令和8年度)
17,920円
年額(毎月納付)
215,040円
1年前納(口座振替)
210,530円(4,510円の割引)
2年前納(口座振替)
417,150円(12,930円の割引)

厚生年金の場合、報酬月30万円なら会社と本人で合計月54,900円、年658,800円です。国民年金のほうが安いのは確かですが、国民年金には報酬比例部分がないため、将来受け取る年金は基礎年金だけになります。安くなったぶんは将来の受給額から引かれています。

生活費を会社から借りる場合の認定利息

役員報酬を0円にしても生活費は要ります。会社からお金を引き出す方法として「役員貸付金」が挙げられることがありますが、無利息で借りると利息相当額が給与として課税されます。

利率は所得税基本通達36-49により、貸付けを行った年の利子税特例基準割合によります。国税庁のタックスアンサー No.2606 に年ごとの数字が載っています。

認定利息の利率と、残高別の年間の課税額(利率は国税庁、金額は当サイトの計算)
貸付けを行った年利率残高100万円残高300万円残高500万円残高1,000万円
令和8年中1.3% 13,000円39,000円65,000円130,000円
令和4年から令和7年中0.9% 9,000円27,000円45,000円90,000円

差額が年5,000円以下なら課税されません。令和8年の利率1.3%で計算すると、残高が384,615円を超えたところが分かれ目です。生活費を月30万円ずつ借りると、3か月目でこの線を越えます。

認定利息は定期同額給与に当たる

法人税基本通達9-2-11(2)は、9-2-9(7)(役員への無利息・低利貸付けによる経済的な利益)のうちその額が毎月著しく変動しないものは、定期同額給与に該当するとしています。つまりこの経済的利益は役員給与そのものとして扱われます。「役員報酬0円」という建て付け自体が、この時点で崩れます。0円で届出をしながら毎月の貸付けを続けると、実質的に毎月の給与を受け取っているのと同じ扱いになります。

例外として課税されないのは、(1) 災害・疾病などで臨時に多額の生活資金が必要になった場合に合理的な金額・返済期間で貸し付けたとき、(2) 会社の借入金の平均調達金利など合理的な利率を定めて貸し付けたとき、(3) 差額が年5,000円以下のとき、の3つです(No.2606)。

役員報酬0円で使えなくなる3つの枠

ひとり法人の節税策としてよく並ぶ3つですが、うち2つは役員報酬を出していることが前提です。

3つの制度の枠と、役員報酬0円のときに使えるか
制度年間の枠税務上の性質役員報酬0円のとき
企業型確定拠出年金660,000円月55,000円法人の損金(法人税法施行令135条3号) 使えない役員が厚生年金の被保険者であること(確定拠出年金法9条1項)
小規模企業共済840,000円月70,000円まで個人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除) 控除を当てる所得がない法人の損金にはできない
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)2,400,000円月200,000円まで・積立上限8,000,000円法人の損金 役員報酬とは無関係ただし設立1年目は加入できない

企業型確定拠出年金は厚生年金の被保険者でないと入れない

確定拠出年金法第9条第1項は「実施事業所に使用される第一号等厚生年金被保険者は、企業型年金加入者とする」と定めています。役員報酬0円で厚生年金の被保険者にならない場合、この要件を満たしません。拠出限度額は月55,000円(年660,000円)で、事業主掛金は法人税法施行令135条3号により全額損金です。なお令和8年12月1日から月62,000円(年744,000円)に引き上げられます(年金制度改正法・令和7年政令第441号)。

小規模企業共済は「法人の損金」ではない

中小機構の公式ページには「掛金は、共済契約者ご自身の収入の中から納付していただきますので、事業上の損金または必要経費には算入できません」と書かれています。掛金は個人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除・所得税法75条)です。役員報酬が0円なら、控除を当てる所得がありません。

もうひとつ、加入する側の条件があります。合同会社の場合、業務執行社員として登記されている社員でなければ加入できません。業務執行権のない社員、使用人兼務役員、他の法人と常時雇用関係にある給与所得者(副業の会社員を含む)は加入できません。

20年未満の任意解約は元本割れする

中小機構の原文は「納付した掛金に対して100%以上の解約手当金をお受け取りいただけるのは、掛金納付月数が240か月(20年)以上からです」。掛金月1万円の公式の例で、実額はこうなります。

納付期間払った額解約手当金
5年(60か月)600,000円480,000円−120,000円
10年(120か月)1,200,000円1,020,000円−180,000円
15年(180か月)1,800,000円1,665,000円−135,000円
20年(240か月)2,400,000円2,400,000円±0円

12か月未満は解約手当金そのものが出ず、掛捨てになります。また65歳未満での任意解約は一時所得、65歳以上の退任や会社の解散なら退職所得と、出口の課税も変わります。

経営セーフティ共済は1年目に入れない

中小機構の加入資格は「引き続き1年以上事業を継続している中小企業者」です。設立したばかりの法人は加入できません。節税策として紹介している記事の多くが、この1行を落としています。

入れるようになってからは、法人にとって最も大きい枠です。月200,000円まで、年2,400,000円を損金にでき、積立の上限は8,000,000円です。ただし性質は課税の繰延べで、解約手当金は全額が益金になります。役員退職金など、大きな損金が出る年にぶつける前提の制度です。

経営セーフティ共済 任意解約の解約手当金の支給率
納付月数支給率
1〜11か月0%
12〜23か月80%
24〜29か月85%
30〜35か月90%
36〜39か月95%
40か月以上100%

加えて令和6年10月1日以降に解約して再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに払った掛金は損金にできません。「解約して翌年また入る」という使い方は封じられています。

0円が成り立つのはどういう場合か

ここまでの金額を並べると、役員報酬0円が成り立つ条件は絞られます。

0円にする理由があるとき
  • ほかに厚生年金の被保険者としての勤め先があるとき。会社員が副業で法人を作る場合は、健康保険も厚生年金も本業側で入っています
  • 前年の所得がもともと低いとき。国民健康保険料は前年所得で決まるので、この場合は実際に安くなります
  • 売上が立つ見込みが薄く、会社から出せる額がないとき。定期同額給与として払えない額を決めても意味がありません
0円が割に合わないとき
  • 個人事業から法人成りした1年目。国民健康保険料は前年の事業所得で決まり、軽減も当たりません
  • 生活費を会社から借りる前提のとき。認定利息が給与課税になり、しかも定期同額給与として扱われます
  • 企業型確定拠出年金や小規模企業共済を使いたいとき。年1,500,000円ぶんの枠が使えません
  • 将来の年金を増やしたいとき。厚生年金の報酬比例部分は1円も積み上がりません

社会保険料そのものの金額と、報酬をいくらに決めるかの手続き(事業年度開始から3か月以内・定期同額給与)は社会保険料と役員報酬で扱っています。報酬月30万円なら会社負担だけで年523,800円、労使合計で年1,034,640円です。法人住民税の均等割は赤字でも年70,000円かかります。

よくある質問

役員報酬を0円にしたら、国民健康保険料はいつ下がりますか。

法人成りの翌年度からです。国民健康保険料は前年の総所得金額等で計算するため、法人成りした年度は個人事業時代の所得で請求されます。役員報酬が0円の年が終わって初めて、次の年度の保険料が下がります。

国民健康保険料に上限はありますか。

区分ごとにあります。令和8年度の東京23区で、医療分670,000円、支援金分260,000円、介護分170,000円、子ども・子育て支援分30,000円です。40〜64歳で全部が上限に達すると年1,130,000円になります。

会社から生活費を借りて、あとでまとめて返せば問題ありませんか。

返済しても、借りていた期間の利息相当額は課税の対象です。国税庁のタックスアンサー No.2606 は、利率により計算した利息と実際に支払う利息の差額が給与として課税されるとしています。差額が年5,000円以下であれば課税されません。令和8年中の貸付けの利率は1.3%なので、残高384,615円が分かれ目です。

小規模企業共済は法人の経費になりますか。

なりません。中小機構が「事業上の損金または必要経費には算入できません」と明記しています。個人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除)です。法人の損金になるのは経営セーフティ共済と企業型確定拠出年金の事業主掛金のほうです。

設立初年度にできる節税策はありますか。

経営セーフティ共済は「引き続き1年以上事業を継続している」ことが加入資格なので、初年度は入れません。企業型確定拠出年金は役員が厚生年金の被保険者であれば初年度から導入できます(確定拠出年金法9条1項)。小規模企業共済も役員報酬を出していれば初年度から加入できます。いずれも役員報酬をいくら出すかの設計が先です。

出典

この記事を書いた人

株式会社Retraite(当サイト運営) ひとり法人を実際に運営している事業者です。個人名は公開していません。税理士・司法書士などの有資格者ではなく、士業による監修は入っていません

そのため、個別の税務判断や法律判断は書きません。制度の仕組み・金額・期限・手続きの順番までを、公式の一次情報だけを引いて整理しています。条文を引くときは e-Gov 法令検索の原文に当たり、条番号まで書きます。

比較記事に出てくるサービスのうち、実際に使っているのはバーチャルオフィス1社(レゾナンス)と法人口座1行だけです。使っているからといって順位を上げてはいません(レゾナンスは料金順で3位のまま)。→ 実際に使っているサービス編集方針とデータ品質

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