会社をつくる
会社の住所に自宅を使うと、あとで何が起きるか
法人を設立するとき、本店所在地は定款を作る前に決めなければいけません。自宅にすれば費用はゼロ。ただし登記した住所は、自分が思っているよりずっと広く公開されます。何が公開され、誰が見られて、あとで変えるのにいくらかかるのか。順番に確認します。
登記した住所は、誰でも見られる
ここが一番誤解されているところです。本店所在地は、申請した人と取引先だけが知る情報ではありません。制度上、誰でも見られるように作られています。経路は3つあります。
1. 登記事項証明書は、誰でも取れる
商業登記簿の謄本(履歴事項全部証明書)は、その会社と何の関係もない第三者でも、手数料を払えば取得できます。商業登記法で「何人も」請求できると定められているためです。オンラインなら数百円、即日。会社名さえ分かれば、本店所在地は誰でも入手できると考えてください。
2. 国税庁の法人番号公表サイトに載る
法人番号が指定されると、商号・本店所在地・法人番号が国税庁のサイトで公表されます。これは申請でも任意でもなく、法人番号法に基づく自動的な公表です。検索フォームから会社名で引けますし、全件のデータがCSVでダウンロードできる形でも配布されています。
全件データが公開されている以上、それを取り込んだ民間の企業情報サイトが必ず現れます。実際、会社名で検索すると公式サイトより先に企業データベースのページが出てくることがよくあります。そこに載っている住所は、あなたが登記した住所です。一度出てしまうと、元データが国税庁である以上、消すのは簡単ではありません。
3. 特定商取引法に基づく表記
ネットで商品やサービスを販売するなら、特定商取引法により事業者の氏名・住所・電話番号を表示する義務があります。自宅で登記していれば、自宅の住所をサイトに書くことになります。ここは登記の話とは別ルートですが、結果として同じ住所が公開されます。
まとめると、自宅で登記するというのは、自宅の住所を公開情報にするという判断と同じです。それが許容できるかどうかが最初の分岐点になります。
賃貸住まいの場合に起きること
賃貸物件の契約書には、多くの場合「専ら居住の用に供する」といった使用目的の条項があります。ここに法人登記が抵触するかどうかは、契約書の文言と貸主の判断によります。一般論として言えるのはここまでです。
ただし実務上、押さえておくべき点が2つあります。
- 貸主が気づく経路は存在します。上に書いた通り、登記情報も法人番号も公開されています。管理会社が物件の住所で検索すれば出てきます。「バレない」という前提で設計しないほうがいいです。
- 分譲マンションの場合は管理規約も見る必要があります。区分所有の建物では、管理規約で専有部分の用途を住居専用に限定していることがあります。この場合、所有者であっても事業利用は規約違反になり得ます。
確認の順番としては、契約書の使用目的条項を読む → 不明なら管理会社に事前に聞く、です。事後に発覚するより、事前に断られたほうが被害は小さく済みます。
あとから変えるといくらかかるか
「とりあえず自宅で登記して、事業が育ったら移せばいい」という考え方は成立します。ただしコストを把握したうえで選んでください。
| ケース | 登録免許税 | 内容 |
|---|---|---|
| 同じ法務局の管轄内で移転 | 30,000円 | 1件として課税 |
| 別の法務局の管轄へ移転 | 60,000円 | 旧管轄・新管轄それぞれに30,000円 |
これに加えて、実務上は次の手間が発生します。
- 税務署・都道府県税事務所・市区町村への異動届
- 年金事務所・労働基準監督署・ハローワークへの届出(従業員がいる場合)
- 銀行口座の登録住所変更
- 許認可を取っている場合はその変更手続き
- 名刺・請求書・契約書ひな形・サイトの表記
登録免許税3万円は、見方を変えればバーチャルオフィス2〜3年分です。レゾナンスなら月990円なので、3万円で約30ヶ月分。「あとで移せばいい」は、2年半分の家賃を前払いするのと同じということになります。移す可能性が高いなら、最初から借りたほうが安く済みます。
迷ったときに効く順番があります。①自宅の住所が公開されて困るか → ②賃貸/管理規約で禁止されていないか → ③2年以内に移す可能性があるか。①か②でひとつでも引っかかれば、その時点で借りる側に倒してかまいません。③だけなら、費用を比べて決めれば足ります。
自宅でいい場合/やめたほうがいい場合
持ち家(かつ管理規約に用途制限がない)で、事業の性質上、住所が知られても問題がない場合。たとえば法人化した受託開発や、取引先が限られている事業。この条件なら費用ゼロが素直に有利です。
賃貸で使用目的の条項がある場合、ネット販売で特商法表記が必要な場合、そして家族と同居していて自分以外の生活の場でもある場合。ここは金額の問題ではなく、あとから取り返しがつかない種類のリスクです。
宅地建物取引業免許は事務所の実体が要件のため、バーチャルオフィスでは取得できません。古物商や人材派遣業も、実体を求められて断られることがあります。この場合は自宅かレンタルオフィスかの二択になります。
借りると決めた場合、いくらかかるか
バーチャルオフィスを借りる場合の相場は、登記できるプランで月990円から2,530円です。ここで注意が必要なのは、各社が広告で打ち出している最安値(550円〜660円)のほとんどが登記に使えないプランだという点です。金額だけを比べると土俵がずれます。
| サービス | 月額 | 初年度総額 | 備考 |
|---|---|---|---|
| レゾナンス | 990円 | 17,380円 | 登記できるプランの月額が最安。都内一等地が14拠点 |
| GMOオフィスサポート | 1,650円 | 19,800円 | 入会金も保証金も0円。やめるときに捨てる金がない |
| DMMバーチャルオフィス | 2,530円 | 35,860円 | 知名度と運営基盤。沖縄・仙台など他社にない拠点がある |
| Karigo | 4,700円 | 61,900円 | 全国60拠点以上。地方都市の住所が要るなら選択肢がここしかないことがある |
| 京都すざくスタジオ | 0円 | 0円 | 住所は京都市。非営利法人が運営。0円プランの適用条件は非公開 |
最も安いのは月0円の選択肢ですが住所が京都市に限られます。東京の住所が必要ならレゾナンスの990円が最安、続けるか分からない段階なら入会金・保証金が0円のGMOオフィスサポート。条件ごとの詳しい比較は次の記事にまとめています。
登記できるプランの月額が4社で最安。初年度総額17,380円です。入会金5,500円は、月額差で9ヶ月目までに回収できます。
入会金0円キャンペーンの条件は時期によって変わります。申し込み前に公式ページで現在の条件を確認してください。
まとめ
- 登記した住所は誰でも取得できる公開情報になる。登記簿、国税庁の法人番号公表サイト、そこから派生する民間データベースの3経路。
- 賃貸なら契約書の使用目的条項を、分譲マンションなら管理規約を先に読む。公開情報なので、気づかれない前提で設計しない。
- あとから移すと登録免許税3万円(管轄が変わると6万円)。これはバーチャルオフィス約2年半分にあたる。
- 迷ったら①住所の公開 → ②契約・規約 → ③移す可能性の順に見る。①②で引っかかれば借りる。
出典
- 商業登記法第10条(登記事項証明書の交付請求は「何人も」可能)
- 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(法人番号の公表について)/国税庁 法人番号公表サイト
- 特定商取引に関する法律第11条(通信販売についての広告の表示事項)
- 登録免許税法 別表第一(本店移転登記 1件につき3万円)
- 各バーチャルオフィス事業者の公式サイト(2026年9月21日確認)