役員退職金とは|ひとり法人が自分に退職金を出す仕組みと税金の扱い
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ひとり法人をつくった代表が、引退するときに会社から自分へ退職金を出せるかという相談がある。法人なら役員退職金として会社の損金にでき、受け取る側も退職所得として税の負担が軽くなる形がある。ただし役員としての勤続年数が5年以下だと税の優遇の一部が使えず、不相当に高額な部分は会社の損金にならない。個人事業主には自分に退職金を出す仕組みがない。この記事では、役員退職金の仕組みと税の扱い、注意点を整理する。
役員退職金は「会社から役員へ支払う退職金」
役員退職金(役員退職慰労金)とは、役員が退任するときに会社がその役員へ支払う退職金をいう。ひとり法人で役員が自分だけであっても、会社と役員は別の人格なので、会社が代表である自分に退職金を支払うことができる。
会社が支払った役員退職金は、不相当に高額な部分でなければ会社の損金になる(法人税法第34条第2項)。会社に残してきた利益を、退職の場面で役員が受け取る形になる。毎月の役員報酬として受け取る場合と比べて、まとまった額を一度に動かせる点が違う。
個人事業主には、この仕組みがない。事業主が自分自身に退職金を払うという関係が成り立たず、自分への退職金は経費にならないためである。役員退職金は法人だからできることのひとつで、法人にすると何が変わるかは個人事業主が法人化するタイミング、法人にして増える負担は会社設立(法人化)のデメリットで扱っている。
受け取る側は「退職所得」として税の負担が軽くなる
役員が受け取る退職金は、給与や賞与とは分けて「退職所得」として課税される。退職所得には退職所得控除があり、勤続年数が長いほど控除額が大きくなる。退職所得控除は、勤続20年以下の部分は1年あたり40万円(合計が80万円に満たないときは80万円)、20年を超える部分は1年あたり70万円で計算する(所得税法第30条第3項)。
課税される退職所得は、受け取った退職金から退職所得控除を引き、その残りの2分の1とする(所得税法第30条第2項)。さらに退職所得は他の所得と分けて税額を計算する分離課税で、給与など他の所得と合算して累進税率が上がることがない。退職所得控除・2分の1課税・分離課税の3つが重なるため、同じ金額を毎月の役員報酬で受け取るより税の負担が軽くなりやすい。
会社に利益を残して将来の退職金に回す設計が有利に働くかどうかは、見込める利益の大きさによる。個人事業主とひとり法人で手取りがどこで分かれるかは個人事業主とひとり法人の損益分岐で、退職金がなぜ効くかも含めて試算している。
役員としての勤続5年以下は「2分の1課税」が使えない
役員としての勤続年数が5年以下の役員が受け取る退職金は、2分の1にする計算が使えない(特定役員退職手当等、所得税法第30条第2項・第5項)。この場合は、退職金から退職所得控除を引いた残りの全額が課税の対象になる。
会社を設立してすぐに退職金を出す形だと、この2分の1課税が使えず、退職所得控除も勤続年数が短いぶん小さくなる。退職金の税の優遇は、役員を長く続けたあとに受け取るほど効きやすい。短い期間での支給を前提にすると、思ったほど負担は軽くならない。
「不相当に高額な部分」は会社の損金にならない
会社が支払う役員退職金のうち、不相当に高額な部分は会社の損金にできない(法人税法第34条第2項)。いくらまでなら損金にできるという一律の上限は法令に定められておらず、その役員の在任期間や退職の事情、同じような規模・業種の会社の支給状況などから、高すぎないかを判断する(法人税法施行令第70条)。
実務では、退任時の役員報酬の月額に、役員としての勤続年数と功績倍率と呼ばれる率を掛けて適正額の目安を出す方法が使われることが多い。ただし功績倍率は法令で決まった数字ではなく、会社の状況によって判断が変わる。役員報酬を不相当に低く設定していると、目安となる退職金の額も小さくなる。役員報酬そのものの決め方は役員報酬の決め方で整理している。
支給には退職の事実と決議がいる
役員退職金を出すには、実際に役員を退任するという事実と、支給についての決議が要る。役員への退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決める(会社法第361条)。あわせて退職給与規程を整えておくと、金額の根拠を示しやすい。
在任したまま名目だけ退職金を払う形は、原則として役員退職金として認められない。常勤から非常勤に変わるなど、役員としての地位や職務が実質的に大きく変わった場合に退職金として扱える場合もあるが(国税庁のタックスアンサー「役員の分掌変更等の場合の退職給与」)、形式だけでは認められない。
| 退職金の扱い | 個人事業主 | ひとり法人(役員退職金) |
|---|---|---|
| 自分への退職金 | 出せない(経費にならない) | 会社から役員へ出せる |
| 受け取るときの所得 | 退職金という扱いがない | 退職所得(退職所得控除・2分の1課税) |
| 会社の損金 | 仕組みがない | 不相当に高額な部分を除いて損金になる |
| 引退への備え | 小規模企業共済など | 会社に利益を残す・共済を使う |
退職金だけで決めず、全体で見る
将来の退職金を会社の損金にして税の負担を抑えられることは法人の利点のひとつだが、それだけで法人にするかどうかは決まらない。法人には設立の費用や、赤字でもかかる負担がある。退職金の扱いだけを切り出さず、全体の損得で見ておきたい。
そもそも法人にする価値があるかは、見込める利益によって変わる。個人事業主とひとり法人の損益分岐でどのくらいの利益から法人が有利になるかを試算し、節税を主な目的に小さく法人を持つマイクロ法人が自分に向くかどうかもあわせて見ておくとよい。役員報酬を抑えて利益を会社に残すときに代わりに来る負担は役員報酬を0円にすると代わりに何が来るか、住所を公開せずに会社をつくる方法はバーチャルオフィス比較で確認できる。具体的な退職金の適正額や功績倍率の判断は、税理士など専門家に確認する方法もある。
よくある質問
ひとり法人でも自分に退職金を出せますか。
出せる。会社と役員は別の人格なので、会社が代表である自分へ役員退職金を支払える。不相当に高額な部分を除いて会社の損金になり、受け取る側は退職所得として課税される。
なぜ退職金は税の負担が軽くなるのですか。
退職所得には勤続年数に応じた退職所得控除があり、控除を引いた残りの2分の1だけが課税の対象になる。さらに他の所得と分けて計算する分離課税のため、同じ額を毎月の役員報酬で受け取るより負担が軽くなりやすい。
設立してすぐに退職金を出せますか。
出すこと自体はできるが、役員としての勤続年数が5年以下だと退職所得を2分の1にする計算が使えない(特定役員退職手当等)。退職所得控除も勤続年数が短いぶん小さく、税の優遇は役員を長く続けたあとのほうが効きやすい。
退職金はいくらまで出せますか。
一律の上限は法令に定められていない。ただし不相当に高額な部分は会社の損金にできない。実務では退任時の役員報酬の月額・勤続年数・功績倍率から適正額の目安を出すが、判断は会社の状況で変わるため、税理士など専門家に確認する方法もある。
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